カウンター越しの宇宙

Gaze universe from the counter -とある大学職員の雑記

大学に出席管理は必要か - Why attendance should be checked in university ?

こんばんは、宇宙くじらです。

たまには真面目に大学職員っぽいことを書きます。

大学にいて教務系の仕事をしていると必ず一度は耳にするであろう問題、”出席問題”。

僕はまだそーんなには年をとっていないつもりなんですが、それでも大学における出席の取り方は、その意義やあり方と方法がこの数年でガラッと変わってきたように思います。

大学は、あの手この手で学生の出席管理を厳格に取ろうとします。
学生は、あの手この手で大学側の出席から逃れよう(不正に出席しよう)とします。
今も昔も、大学での出席は常に大学と学生のイタチごっこ状態です。

ではなぜ、大学に出席管理は必要なのでしょうか。

大学の出席管理方法

さて、出席管理の方法といえばどんなものを思い浮かべますか?

 1. 点呼
 2. 紙の出席カード
 3. 名簿に自分でチェックをつける
 4. 授業時に実施される小テストなど課題の提出
 5. 学生証による携帯端末等へのタッチ認証
 6. 机に学生証を置くことによる自動確認
 7. クリッカーによる管理
 8. e-Learningなどによるweb管理

ざっと思いつくところでこんな感じでしょうか。
このうち、1〜4までは僕が大学生だった十年くらいまではごく一般的というか大多数を占める出席確認方法だったのではないかと思います。
5は僕が大学生の頃から先進的な取り組みをしている大学ではやっていたようですが、ここ数年で爆発的に普及し現在では多くの大学で採られている手法ではないでしょうか。

6は5の発展版みたいなもので、机にカードリーダが埋め込まれていて、授業中は常にカードはそこに置いておくように、という使い方をするらしいです。 そして、机に学生証を置いた時間で遅刻管理、授業中に机から学生証が離されたら早退、のようなことが自動でできるらしいです。すごいですね。

7は実は結構前から取り入れられているのではないかと思いますが、クリッカーという簡素なリモコンみたいな端末を学生に持たせ、授業内でアンケートをとったり設問に回答させたりすることができる仕組みで、学生一人一人とクリッカーの端末番号を紐付けることができ不正出席を防止しやすいことに加え、授業自体非常にインタラクティブな要素を持たせ易いことから人気のある手法だと思います。

8も取り組み自体は前からあったものですが、e-Learningの浸透によりグッと身近になったもので、授業自体をICT端末とWEBを駆使することによりクリッカー同様授業内でのリアルタイムなアンケート回答や課題実施が可能なことに加え、授業資料なんかもペーパレスにできるという恩恵があったりしますね。e-Learningにログインする際に学生が自分のID、PWを用いるため、こちらも比較的精度の高い出席管理が可能だと思われます。

5から8の手法はいずれも精度の高い出席管理を実現できる反面、設備を揃えるために多額の費用が必要であったり、またシステム運用を継続するためにハードソフト共にメンテナンスのために専門知識は必要であったり人件費が必要となったり、というデメリットもあります。
1から4の手法では割と安価で手軽に運用できる反面、所謂"代返"などの不正出席が行われ易いという側面もあります。


なぜ出席管理が必要なのか

では、改めて、なぜ大学で出席管理が必要なのでしょうか。

前提

まず、本題に入る前に必要な、前提となる制度・法令等についてです。

単位制

まず始めに理解しておきたいのが、大学の単位制度というものです。
現在日本のほとんどの大学では、"単位制"が敷かれています。これは、簡単に言うと学修内容を数値化したもので、1単位に必要となる時間数は大学設置基準21条で45時間と定められています。そして、この45時間は授業時間と予習復習を含む自主学修時間が合計されたものとなります。
つまり、大学で1単位を修得するためには計45時間の勉強が必要ですよっていうことですね。
また、1単位45時間の中での授業時間はこれもやはり大学設置基準21条にて授業の手法(講義、演習、実験実習実技など)ごとに定められています。

(単位)
第二十一条 各授業科目の単位数は、大学において定めるものとする。
2 前項の単位数を定めるに当たつては、一単位の授業科目を四十五時間の学修を必要とする内容をもつ て構成することを標準とし、授業の方法に応じ、当該授業による教育効果、授業時間外に必要な学修等 を考慮して、次の基準により単位数を計算するものとする。
一 講義及び演習については、十五時間から三十時間までの範囲で大学が定める時間の授業をもつて一単 位とする。
二 実験、実習及び実技については、三十時間から四十五時間までの範囲で大学が定める時間の授業をも つて一単位とする。ただし、芸術等の分野における個人指導による実技の授業については、大学が定め る時間の授業をもつて一単位とすることができる。
三 一の授業科目について、講義、演習、実験、実習又は実技のうち二以上の方法の併用により行う場合 については、その組み合わせに応じ、前二号に規定する基準を考慮して大学が定める時間の授業をもつ て一単位とする。
(大学設置基準第21条)


卒業要件

次に、大学における卒業要件です。
大学卒業の要件は、大学設置基準32条において124単位以上と定められています。

(卒業の要件)
第三十二条 卒業の要件は、大学に四年以上在学し、百二十四単位以上を修得することとする。 2 前項の規定にかかわらず、医学又は歯学に関する学科に係る卒業の要件は、大学に六年以上在学し、 百八十八単位以上を修得することとする。ただし、教育上必要と認められる場合には、大学は、修得す べき単位の一部の修得について、これに相当する授業時間の履修をもつて代えることができる。 3 第一項の規定にかかわらず、薬学に関する学科のうち臨床に係る実践的な能力を培うことを主たる目 的とするものに係る卒業の要件は、大学に六年以上在学し、百八十六単位以上(将来の薬剤師としての 実務に必要な薬学に関する臨床に係る実践的な能力を培うことを目的として大学の附属病院その他の病 院及び薬局で行う実習(以下「薬学実務実習」という。)に係る二十単位以上を含む。)を修得すること とする。 4 第一項の規定にかかわらず、獣医学に関する学科に係る卒業の要件は、大学に六年以上在学し、百八 十二単位以上を修得することとする。 5 第一項の規定により卒業の要件として修得すべき百二十四単位のうち、第二十五条第二項の授業の方 法により修得する単位数は六十単位を超えないものとする。
(大学設置基準 第32条


長くなりましたが、ここまでが前提です。
この2つの前提から読み取れることは、"大学を卒業するためには(医歯薬獣医を除いてですが)最低でも124単位が必要であること"と、"1単位修得するためには授業時間も含め45時間の学修が必要であること"、つまり、大学を卒業するためには最低でも4年間で
  45 × 124 = 5,580 時間(日数換算では232.5日、月数換算では約8ヶ月程度)
の学修時間が必要である、ということです。

大学で"単位を修得する"ということ

前記の内容は、言い換えれば、大学を卒業したということはこれだけの時間の学修を行った、ということになります。
つまり、大学として単位を与える、卒業を認め学位を与える、卒業で資格などが取得できる場合はその資格の取得を認めるということは、全てこの時間数を満たしていることの証明と同意になるのです。
また、医療系などの国家資格となる専門職を養成している大学であれば、卒業をすることでその国家資格を取得するための国家試験を受験する権利を得ることができるようになります。
職種にもよりますが、医療系(特に医師、看護やリハスタッフなど)は大学設置基準の他、指定規則と呼ばれる教育機関で修得すべき単位数(≒学修時間数)が定められた法律があります。 この指定規則によって、「○○の国家試験を受験するためには、■■の分野/領域から××の内容を学修する科目を▲単位(以上)修得している必要がありますよ」と決められているわけです。
繰り返しにになりますが、"大学で単位を修得する(した)"ということは"この科目を指定以上の時間学修する(した)"ということであり、これはつまり、大学が卒業を認める、成績証明書などで修得した単位を証明する、ということは学生の学修時間を証明することともなります。

では、大学は学生の学修時間をどのように把握するのか?

その答えの一つが授業における出席管理にあります。

出席管理をする意味

もうここまでくればほとんどの人は察しているかと思いますが、こういった事情から大学で出席管理を行うことは大学として単位を修得した、もしくは卒業した学生を自信を持って「ちゃんとうちで必要な単位を修得した学生です」と言うためにも、必要な措置となります。 よく「医療系の大学は他分野の大学に比べ出席管理が厳しい」という話を聞きますが、背景が分かっていれば納得できることです。
(特に国家)資格に関係するカリキュラムを持っている場合、国や機関が定めた基準を満たすように学生に学修させる必要があります。医療職という人の命を預かる職種を養成する上で、「実はうちの大学の卒業生はきちんと指定の時間勉強していませんでした」なんてことは絶対にあってはなりません。
※医療職以外は適当でいいという意味ではありませんよ!
大学として学生、卒業生の修得単位に責任を持つためにも、出席管理というのは必要不可欠なのです。


学生の認識

一方で、学生はこの「出席」というものについて間違った(というか極端な)解釈をしがちです。 出席について、安易に捉えすぎているのです。

原因はいくつか考えられますがそのひとつは"大学による説明不足"であると僕は思います。

学生への"単位と学修時間"に関する説明

ほとんどの大学では入学直後に教員、事務局によるオリエンテーションを実施していることと思いますが、果たしてどこまで"単位制度と学修時間"について説明しているでしょうか。
説明はしないにしても、履修要項に書いてあるとか、規程に載っているとか、調べればわかるとか、確かにそのとおりなんです。実際、数年前まではそうだったのかもしれません。設置基準にあるくらいの内容なので、この手のことを説明、解説しているWEBサイトも調べればいくらでもあるんじゃないかと思います。
しかし、以前の記事(大学職員とは - What is administrative staff ? - カウンター越しの宇宙)にも書いた通り今の大学は受け入れる学生も、大学の在り方そのものも、そして職員の存在意義も、大きく転換を求められているのではないかと思います。
これまではある意味学生の主体性に任せていられたことも、大学側が懇切丁寧に説明しなければならない時代になってしまっているのかもしれません。
まぁ、それはそれで、説明してあげないと何もできない学生、指示待ちばかりの学生を量産してしまう要因にもなったりするのかもしれませんが・・・。

単位と学修時間の考え方は、これを基準にして"CAP制"や"GPA"につながる、大学生活を送る上で学修面では最も重要な要素の一つとなります。
参考までに、僕が勤めている大学では「ここの理解がすべてにつながる」ということで、数年前に履修要項の該当ページの大幅刷新を行ったとともに、入学後のオリエンテーションで事務局教務担当として丁寧に説明するように努力をしています。

成績評価と出席回数の関係

また、学生の誤認識を招いている原因のひとつとして別に考えられるのが、シラバスの記載も含めた成績評価方法への説明です。
いろんな大学のシラバスを見ていると、未だに授業への出席回数が出席点として成績に加算されると記載されている場合やそのように解釈できる記載がされている場合があります。
そのため、学生は授業を受けるため、知識を得るために授業に出席しているのではなく、出席点を得るために出席をしているケースが多いのです。

そもそも文科省は各大学に対して、「成績評価に出席点を入れないよう指導」しています。もう少し詳しく言うと、シラバスに成績評価の具体的な方法を明記することが求められており、シラバス上の成績評価に「出席点」を入れることがないよう指導がされているのです。
この解釈としては、授業は出席して当たり前、出席したら加点(=欠席したら減点)はおかしい、というところでしょうか。
学生、教員ともにこの内容への理解が不十分もしくは不適切であるため、教員はシラバスに誤解を招くような記載をし、学生は「成績が下がるから出席する」という直列的な思考に陥ります。
理論立てて考えれば、授業を欠席すればその回の授業で教授されるべきことが損なわれるので、その科目に対する理解度が落ち、結果的に成績が下がることになると想像することができます。
しかし、今の学生は「なぜ、欠席すると成績が下がるのか」考えない、想像力が働かないようなのです。

シラバスの記載については各大学ともかなり敏感になっており、最近では多くの大学で「シラバス作成要項」のようなものを作成し、どこに何を書くべきか、どう書くべきかが文科省の指針に従って周知されています。
ところが、恐ろしいことに、どんなにシラバスに正しい記載をしたとしても、「あの授業は出席点の配分が高いから出席していれば大丈夫」とか、「あの授業は代返しやすいから授業でなくても楽勝」といったように誤った、そして学生にとって都合のいい情報だけは脈々と後代に語り継がれてしまうのです。

多くの大学では、出席回数は成績そのものの上下に関係するものではなく、「成績評価を受けるための試験の受験資格」に関係するものとして何らかのルールが定められているはずです。
「授業回数の3分の2以上の出席がないと成績評価を受けることができない」というものがメジャーどころでしょう。
では、理解度が下がらず試験を受けるために必要な出席回数を満たしていれば、あとは欠席してもいいのでしょうか。
そこで出てくるのが、前記の単位と学修時間の考え方になるわけです。
大学職員としての立場を捨て、ごく個人的モノを言わせて頂けるとしたら、僕の意見は
「大学で定められた試験の受験資格を満たすための出席回数さえあれば、あとは理解度=成績評価に係る試験の結果については自己責任で獲得するものであり、欠席してもいいかどうかは個人の判断、責任でどうぞ」という感じです。
大学を運営するスタッフの立場としては、大学としてその学生がきちんと所定の学修時間を満たしていることを証明するため、もっと言うと本学の卒業生はきちんと法律で定められた学修時間を満たし、学士を取得しましたよと証明するためにも、学生の授業への出席状況は正確に把握し、指導に役立てる義務があると考えます。


大学に出席管理は必要か

最初に戻って、大学に出席管理は必要か。
在籍する学生がみな、向学心にあふれ、本当に学問が好きで大学に来ているのであれば、不要かもしれません。 現実を見ると、「なんとなく行っている」「行きたくないけど親が行けというから行っている」「大学には行きたくないけど資格が取りたいから行っている」といった学生はごまんといます。
このような状況では、大学にはやはり出席管理が必要なのです。学生を守るためにも、大学を守るためにも。

本記事中で少し触れた、「大学が学生の学修時間を把握する出席管理以外の方法」や、「CAP制」「GPA」といったことについては、今後本blogで折を見て記事として扱っていきたい思います。

最後に、本記事に関連する文科省HP内のページのご紹介です。
Q3 日本の大学の現状について、「授業に出席しなくても単位が取れる」「勉強しなくても簡単に卒業できる」などの声を耳にしますが、これについて大学はどのような対策を講じているのでしょうか。:文部科学省
僕がこの記事で説明したことが大体書いてあります。 大学に関係する皆さまは、是非ご一読を。
僕としてはこんなことを文科省のHPに載せないといけないこと自体が憂うべきことだと思いますが・・・。

それと、大学設置基準(のPDF)です。
文部科学省 大学設置基準

いやぁ、それにしてもいっぱい書いたなぁ(笑)